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蹄と水分の話し。

鬱陶しい露の季節を更に鬱陶しく。

蹄の水分のお話し。

長引く雨で馬場は水浸し、梅雨が明けて暑くなるとミストや丸洗いなどで蹄の水分環境が過多となり蹄質が脆弱になりがちです。

そこで、「蹄」に関する基礎のお話し。

以前参加した牛の「護蹄研究会」での発表が大変勉強になったので。

2008年7月でしたので、もう10年以上も前のことです。現在の最新の情報ではございませんが・・・。
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~牛蹄の組成と構造~
 酪農学園大学 獣医衛生学教室
 樋口先生  より  

牛蹄の組成
1.蛋白質 60~65%
2.脂質  0.5~3%
3.水分  30~35%
4.ミネラル 1%
※ スルメイカとほぼ同じ組成

1.蛋白質
 蹄の骨格を形成する屋台骨のようなもの。
 主なものはケラチン。
 ケラチンは非常に細い物質で、髪の毛の1/10,000、クモの糸の1/500。
 イオウ(S)によるS-S結合(大変強固な結合方式)によって結合。
 S-S結合は物理的には非常に強固だが、尿素(アンモニア)の還元能(アルカリ)に大変弱い。

2.脂質 
 骨組みの間を埋めて蹄の水分調節を行う。(保水と防水)
 
 蹄角質に存在する脂質
 a,中性脂質
   ・コレステロールエステル
   ・トリアシルグリセロール
   ・セラミド
    ※セラミドだけが脂質の中で唯一「保水」と「防水」機能を有する。外は防水だけ。
 b,コレステロール
 c,遊離脂肪酸
 d,極性脂質

 水分が慢性的に足りない蹄質なら、セラミド配合の蹄油が良いかも。(あればの話し)

3.水分 30~35%
 蹄に含まれる水分は角質のしなやかさを左右する。
 細かい事はまだあまり分かっていない。

4.ミネラル 1%
 蹄のミネラルは蛋白質や脂質を合成する酵素活性を誘導する。
 イオウ(S)が多い。

 Ca 蹄角質が地面に近づいてきたので硬い角質になれと信号を出す。
 Cu ケラチンを寄せて来る。
 S ケラチン同士の接着剤。

まとめ
~蹄の構成成分と機能~
 ・角質のケラチンは蹄を支える屋台骨。
 ・脂質はケラチン細胞の間を埋め、水分調整機能(防水と保水)を行う。
 ・蹄の水分は角質のしなやかさを与える。
 ・蹄のミネラルは合成酵素を誘導する。
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〇糞尿は角質をダメにする。

 糞尿を想定した薬物(スラリー?)に蹄角質の切片を浸漬した結果、ケラチンの溶出が確認された。

 水分調節機構に及ぼすアンモニアの影響は、蹄の水分を吸収しやすく、逃しやすくする。つまり水分調節機構は糞尿にによって破綻に陥りやすい。

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以上、(牛)護蹄研究会での樋口先生の講演抜粋でした。

やはり、蹄の基礎研究は牛の方が進んでいる様に思います。研究施設の数や研究費の確保等の問題だとは思います。

上記の研究発表から、

蹄質の保持には清潔な馬房、敷料が必要だと思われます。
まぁ・・・色々ありましょうが・・・。
糞尿と蹄叉腐ランの関係も確実にあります。
蹄叉腐ランはキープドライ、キープクリーンが第一歩です。
蟻洞もね。

スルメイカとほぼ同じ組成ということなので、スルメイカを一晩中糞尿に漬けてみたり、手入れ時に同時間水に漬けたり、蹄油を塗って水につけたりすると効果が分かりやすいかもしれませんね。

蹄角質はアンモニアに晒されると水分を吸収しやすく、また、逃しやすくなるとのことですが、糞尿に晒されるとそれだけ水分の出入り幅が広がり、言ってみると「水ぶくれ」状態と「干物」状態を行ったり来たりするようです。
蹄質の不安定、つまり脆弱化の根源です。(体質、個体差もあります)。

私の個人的意見としましては、蹄質の弱い馬匹は日頃の手入れ(水洗い)を少し控えたほうが良いのでは??と、思っています。

水分の多い環境下(雨の馬場、洗い場)で蹄質が悪いのなら、「蹄の乾燥」を心掛けるべきだと思います。
パッと手入れして、さっさと馬房に戻し、必要なら馬房(乾燥した敷料上)でゆっくり手入れしてあげるとか・・・。

丸洗いしすぎに注意するとか。

梅雨の季節は湿度、水分が上がり、馬も運動でハリがちになり、虫も出て落鉄が増える傾向にあると思います。

皆様、お身体に気を付けて頑張って下さい。

~追記~
夏の放牧祭りも要注意です。

蹄の水分が不足し、蹄叉すらカッチカチになり鎌の刃が入らない状態や蹄壁も強固なプラスチックのようになったりすることがあります。

炎天下の続く馬場、パドックでの放牧のあとは蹄にしっかり水分を与えてから馬房に戻してあげましょう。

硬いツメ(しなやかさを欠いた蹄)は「痛い」かもしれません。